児童文学を勝手に読む会 *2003年度分所蔵*

2003・12 189 ムッドレのくびかざり/イルメリン・サンドマン・リリウス
2003・11 188 秘密が見える目の少女・リーネ・コーバベル
2003・10 187 プラネタリウムのふたご・いしいしんじ
2003・09 186 甲賀三郎・根の国の物語/古田足日
2003・08 185 楽園のつくりかた/笹生陽子
2003・07 184 水の精霊  第一部 幻の民/横山充男
2003・06 183 若草物語/オルコット
2003・05 182 バレエ・シューズ/ノエル・ストレトフィールド
2003・04 181 赤毛のアン/ルーシー・モンゴメリ
2003・03 180 黄色い目の魚/佐藤多佳子
2003・02 179 ムーミン谷の11月/トーべ・ヤンソン
2003・01 178 ダイブ!!1〜4/ 森 絵都
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189 児童文学を勝手に読む会  2003・12・17

ムッドレのくびかざり/イルメリン・サンドマン・リリウス

 さて、2004年の幕開けです。皆様昨年はどのような年でしたか?私は停滞して動けない感じの一年だっ
たので、2004年はいろいろ動きまわりたいですね。さて今年は何をしましょうか。まっさらな一年が待っ
ていると思うとわくわくするのです。(正月だけだけど。)
  助かったよ〜やはり年末はアレコレ忙しくて沢山本読めないよ〜。短くてかわいらしいお話で良かった!
さてみなさん、昔どこかの本棚で、見た事がありませんか?「ムッドレのくびかざり」。フェリシモの再版?
シリーズで、新しく出版になりました。1967年にも一度出版されているので、見かけた事のある人もい
るのではないでしょうか?珊瑚色した角が印象的のユニコーンの表紙です。お話は、お母さんからもらった
珊瑚のくびかざりをなくしてしまった、ちいさな女の子ムッドレ。なかよしのお人形、「アステル・ピッピ」
と夜中におうちを抜け出して、大冒険へと出かけます。ムッドレのまわりには不思議な出来事が沢山。手の
ひらほどのイッカクジュウ、おしゃべりするヒキガエル、川のぬしのおじいさんに、海魔女に、オサビシト
ロル・・・。北欧民話でお馴染みのキャラクターが作者のフィルターを通して次々とあふれだします。何か
に似ている・・・、と思ったらムーミンでした。ムーミントロールもフィンランド出身ですものね。(ムー
ミンの作者トーべ・ヤンソンも、ムッドレの作者のイルメリン・リリウスも、同じヘルシンキ生まれのスウェ
ーデン系フィンランド人。彫刻家や小説家を親に持つところもなんとなく似ている気がします。)このお話、
なんといっても描写が丁寧、というか美しいのですよー。人形のアステル・ピッピの扱いかたも素敵。「人
形によくあるように」動いたり動かなかったりする、冷静なアステル・ピッピ。(ちょっと梨木香歩の「り
かさん」を思い出してしまうのです。私としては。)脳のお洗濯、といった感じです。クリスマスのお話で
はないのだけれど、クリスマスにもぴったりな、美しくて、寒くて?ほほえましいお話でした。ちりばめら
れたイメージが美しいし、新鮮。良質のアニメーションを見ているみたいです。脳のイメージが手垢にまみ
れる前のピュアな状態の頃に、こんな世界を楽しみたかったなあ、と個人的には残念。主人公ムッドレはま
だ小学校へあがる前のよう。幼稚園または小学校1、2年の人に読み聞かせてあげるのが良いのでは?と思
われます。作者も娘のムッドレの為に書いたらしいですし。お話の中身も12の項目に別れているので、一
日一話なら短くて、読むほうもそんなに大変ではないかと。毎日一話を夢の中へ持っていけるなんていう贅
沢が味わえるかもしれませんよ?個人的に好きだったのは、「コーヒーの時間」。いわゆるお茶の時間です。
「コーヒーの時間」、と呼んでいるのに実はコーヒーを飲むのはお母さんだけ(笑)。コーヒー嫌いのお父
さんは紅茶、ムッドレはジュースを飲みながら、ケーキを食べたりするのです。なんとも個人個人ばらばら
なのに、それを「コーヒーの時間」とくくってしまうのがなんとも家族のエピソードらしくて、ほほえまし
いなあ、と思うのです。最近してないなあ、こういう優雅なコーヒータイム・・・。意味も無く喫茶店へいっ
てだらだら喋ったりする事って無駄な時間に見えるけれど、実は大切なんだって気がします。さあ、みなさ
んも優雅なコーヒータイム!造ってみては如何ですか?
  さてさて作者のイルメリン・サンドマン・リリウス。他にも書いています。こちらはもう少し上の人向
け。トッレ王シリーズ三部作「新しい地を求めて」「トッレ南へ」「白鳥」。こちらは神話的世界。父王が
死に、母親の違う兄王二人に追い出されたトッレ王。新しい地で王国を築きます。(おお!甲賀三郎か?と
思ってしまいました。)架空の国、トッレボルグのお話。狐の血をひく娘、リビーテ(安部清明かと・・・)
とか出て来て楽しいです。描写が奇麗。なかなかマニアックな人むけかもしれませんが、アーサー王とか好
きな人には楽しめるのではないでしょうか。それから、太陽の夫人シリーズ三部作、(なのに二冊しか訳さ
れていない!なんたる事じゃ!)「金の冠通り」「錬金術師の館」。こちらは19世紀末の田舎町、ツーラ
バルに暮らす貧乏なハルテル姉妹と謎の孤児ボナデア。日常と幻想が入り交じった、力溢れる作品です(黄
金の羅針盤のオックスフォード下町の子どもたちっていう感じを彷佛とさせます。ほんのちょっとだけね。)
幻想的な雰囲気が北欧的で新鮮。少女ボナデアがかっこよいです。福武書店、1990年頃出版のものです。
これら5冊の本には挿絵も本人が書いています。他にも沢山書いているようですが、訳されているのはこれ
だけのよう。他の作品も読んでみたいですね。

 一月は「ケヤキの森の物語」丘修三です。動物もののようです。新しい年は動物で幕開け〜。
それではまた来月。 ニイクラ

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188 児童文学を勝手に読む会 2003・11・19

秘密が見える目の少女・リーネ・コーバベル

 10月はあんなに長かったのに、11月はあっという間。年末に向けて時間が加速している気のするニイ
クラです。皆さんはいかがお過ごしですか?もう残すところ今年もたったの一ヶ月。クリスマスに忘年会、
大掃除に年賀状!と今年もばたばたしそうな気配。今年こそは!優雅なお正月休みを過ごしてみたいもので
すわ。
  さて「秘密が見える目」って皆さんなら何を想像しますか?透視能力?予言者?(私はつい京極夏彦シ
リーズの探偵榎津礼二郎を思い出してしまったのですが・・・。関係ないですね。ハイ。)この本の主人公
はなんと、その人が「恥じ」と思っているものをお互いが観てしまう「恥じあらわし」と呼ばれる能力を持
つ少女です。兄弟は他にもいるのに、母さんからこの能力受け継いだのはディナだけ。おかげで友達は誰も
ディナと目を合わせてくれない・・・。そんな折、母さんにドゥンアーク領の判事からの使いが「恥じあら
わし」を必要としているという書簡を持って来た。すぐ戻るはずの母さんは戻らず、新たな使いが「母さん
が助けを求めて呼んでいる」とディナを呼びに来るのだが・・・?中世風の世界を舞台に、ドラゴンあり、
錬金術師あり、の世界です。それでも呪文を唱えて・・・という魔法はナシ、の世界です。さて主人公のディ
ナはこの能力をどのように使いこなしてゆくのでしょうか?この「恥あらわし」という設定が新鮮で、どう
いう扱いなんだろうと思っていたのですが、話が完結していないせいか、イマイチ良く分からない。なにせ、
主人公のディナが母さんから「これから教えるわ」って修行になろうとしたところで、ドタバタが始まって
しまうので。面白かったし、いいんだけど、挿絵には納得できない・・・。表紙の絵となんだか印象が違う
し。挿絵がないほうが返って入りやすかったかな、と思います。本の形もどうも、古くさいカンジが・・・。
片面まるまるイラストっていうのは最近あまり観ないような?ストーリーは楽しめたのですが、どうしても
どこかで見たような聞いたような・・・という気持ちも。大人が読むのはちょっと新鮮みが足りないかも。
主人公は10歳の設定ですが、お国柄のせいなのか?日本の10歳の印象よりは年長な感じ。日本の少女な
ら12歳位の設定でしょうか。5冊はシリーズが続いているらしいので、今後主人公がどのように活躍する
のかで、印象も変わってくる気はします。これは登場人物紹介ってカンジかな。同じく早川から出ている児
童書「ハリネズミの本シリーズ」の「幽霊船から来た少年」は挿絵が良かったんですが・・・。他のもどう
なのかな、と思っているのでこの早川の「ハリネズミ」シリーズはちょっと個人的に続けて読んでみようか
と思ってます。
 さて作者のリーネ・コーバベル。デンマークにある「乗馬少女」を主人公にしたジャンル(ティーンズ文
庫みたいなものなのか?)で人気の作家らしく、この本も5冊シリーズの第一作目。なんと12歳から書い
ていて、15歳で初出版という早熟な作家であります。日本語に訳されるのはこれが始めてのようですね。
デンマークの人の小説をあまり読んだ覚えが無いので、もう少し読んでみたいがします。
「不思議なもの見える少女」つながりで他の本もちょっとご紹介。「ジュリー 不思議な力を持つ少女」/
コーラ・テイラー/小学館も、予知能力を持つ少女が主人公のカナダのお話。こちらは力を導いてくれる直
接の師のような人がいなくて、みんなと違う自分を受け入れつつ一人で四苦八苦するお話。舞台も現代なの
で読みやすいかも?佐竹美保さんが挿絵をつけています。
(ちなみに上に書いた、京極シリーズの榎津さんは他人の記憶が見える、という能力の持ち主です。全然子
ども向けではないですが・・・)
やれやれ、不思議なモノが見えるっていうのも大変ですね。

さて12月は「ムッドレのくびかざり」。みなさん忙しいだろうと予想しての短いお話です。まあ、長けりゃ
いいってもんでもないしね・・・。
ではまた来月!  ニイクラ

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187 児童文学を勝手に読む会 2003.10.15

プラネタリウムのふたご・いしいしんじ

 みなさま如何お過ごしですか?日暮れも早くなりましたね。夜のながーい秋の到来です。風邪などひかぬ
ようご注意を。夜だけでなく10月がまだ終わらない〜、その事にびっくり。なんて今月は長いの!?私は
減量の為にウォーキングでも始めようかな・・・と思案中の毎日です。早く始めろよ!って感じなんですが、
これがなかなか・・・。さて今回の「プラネタリウムのふたご」、またもや本がまわって来ないか?と思わ
れる人気ぶりで、渋谷の図書館でなんと11人目の予約者。一応野村さんから廻してもらって事なきを得ま
したが、なかなか読み終わらない!ヒヤヒヤしました。「麦ふみクーツェ」で坪田譲治文学賞を受賞したの
が効いているのでしょうか?しかし、この本を読んで「とても良かったのでやりましょう」、と言っていた
張本人が残念ながら不参加、という残念な会になってしまいました。返す返すも無念だわ。
さてお話ですが、製紙工場しかないような山間の町が舞台。唯一の娯楽施設であるプラネタリウムにおきざ
りにされた銀色の髪のふたごの赤ん坊は、プラネタリウムの解説者「泣き男」によって「テンペル」「タッ
トル」と名付けられ、育てられます。郵便配達を手伝うまでに成長した二人の前にサーカス団がやってきま
す。初めてみる不思議の数々に二人はもう夢中になってしまうが、やがて別離の時が来て・・・?
いつか来るだろう不幸な出来事「まっくろくておおきなもの」を予感させながら、ただひたすら淡々と物語
は進む。それが私には重いなあ、と感じてしまうのだが、みなさんはどうでしょうか?ますむらひろしの漫
画的世界観にグロテスクで避けられない不幸や事故を織り交ぜたような世界、とでも申せばよいのでしょう
か。周囲を固める脇役たちが、名前でなく通称や役職名で呼ばれるのもこの作品独特の雰囲気を出すのに一
役買っている感じ。「泣き男」「老女」「署長」サーカス一座の「うみがめ氏」「兄貴」と「妹」それに「栓
抜き」などなど。(そういえばクーツェの方もそうでした)モチーフになっている背景も、「工場」「プラ
ネタリウム」「サーカス」「手品師」「熊狩り」「予言」となんとなく物悲しい雰囲気のものが多いな、と。
こういう世界観は嫌いではないし、好きな人のキモチもすごくわかるのだけれど、私にはこの「ゲーム」に
参加できなかったんですよねえ。残念ながらこの世界の中で楽しむ事が出来なかった。このいしいしんじの
他のお話を読んでも同じ事を感じたのですが、予感のある「不幸」に向かって物語は進んで行き、努力して
も避けられる事はなく、ただ不幸を受け入れ乗り越えてゆく、というスタンスが私には辛いし息苦しい。全
体に漂う「諦め」の雰囲気と、グロテスクな事故も苦手。最終的に不幸が訪れたとしても、いかに「足掻い」
て成長するか、という物語がやはり、私は好きなので。今現在が辛くて、ただ一歩一歩踏みしめて行く事で
耐えている状態の人、にはとても受けるのかもしれない、とも思ったりしました。とても静かで美しくて、
いいシーンも沢山ありました。(しゃぼん玉をとばすシーンとか)クライマックスで泣き男が「泣く」とこ
ろはやはり最大の泣きのツボ?そのシーンの為に「泣き男」って命名したのかも?嘘を書いてもリアリティ
のある作品、というのが良い小説(やファンタジー)の世界だと私は思うのですが、この物語には、そのリ
アリティを感じられないんですよねえ。すごくいい!と言っている人が多いので、一緒に楽しめなくてとて
も残念。うーん、これは児童文学ではないねえ、と納得。どちらかというと、やはり大人が楽しめるたぐい
の本ではないか、と。まあ、図書館でも分類は一般書になっていたし。最近のヤングアダルトと、一般書の
境はひどくあいまいなところですが。
  さて作者のいしいしんじ、大阪生まれ。京大仏文科卒。(とても忙しくて、とても楽しかったらしい)
サラリーマン生活を経験した後、「シーラカンス」を書いて配ったのを発端に、その道へと進む事に。他の
作品に色々なジャンルのものがあります。絵本(絵も本人)に「なきむしヒロコちゃんはかもしれないびょ
うかもしれない」。シーラカンスの肉は柔らかいのか?うまいのか?確かめるための旅行記「シーラカン
ス」。半紙とすずりを持って、オランダで初似顔絵かきの旅、「アムステルダムの犬」。児童文学ぽいもの
は、天才の弟の小さかった頃を姉が回想する「ぶらんこ乗り」。これは短いので、初めて読むにはお勧めか
も。音楽の才能を持つ孤独な体のでっかい少年「ねこ」が主人公の「麦ふみクーツェ」。中島らもとの共著
「その辺の問題」。町田康との共著「人生を救え!」などがあります。

 11月は「秘密が見える目の少女」リーネ・コーバベル。デンマークの人のお話です。5冊シリーズの第
一弾。最近、シリーズものって増えましたよねえ。ついつい気になって続きを読んじゃうんだけどさ・・・。
ではまた来月。ニイクラ

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186 児童文学を勝手に読む会  2003・09・18

甲賀三郎・根の国の物語/古田足日

  突然!めっきり涼しくなりました。冬が近くなると俄然元気のでるニイクラです。みなさん如何お過ご
しですか?今月の私は、ヨガのキャンプで御岳山へ、一泊二日で四国四万十川へと、忙しい月でした。四万
十川!水の民、幻の民「セゴシ」の故郷ですよ〜。しかし日程の半分は台風の為豪雨。もうちょっとゆっく
りしたかったなあ、と無念さは残るものの、うどんとカツオのたたきは満喫して参りました。あと、ミサゴ
とセキレイと白鷺(のようなもの)も目撃しました。少し遅れた夏休みといったところでしょうか?
  さて今回の作品は「おしいれのぼうけん」等で有名な「古田足日」の未完の小説、「甲賀三郎・根の国
の物語」。甲賀三郎って知ってますか?昔話?伝説として有名らしいので、しかたなくこちらのほうも目を
通す。簡単に言うと、三男坊の三郎が兄二人に騙されて根の国へ降り、長い年月をかけ戻って来ると大蛇の
姿になっているという話です。色々バリエーションに富んでいるので、興味のある人は探してみて違いを楽
しんで下さい。 多分この伝説から名前を頂戴したのであろう、江戸川乱歩のライバル?と言われた推理小
説作家もいます。検索する時は気をつけて。
 本編は「古田足日子どもの本」という全集の別巻に収められています。未完なんですよ。終わってないん
ですよ〜。ですから感想を書くのはとっても難しいのですが。なのに何故こんなに分厚いの・・・?小説の
部分だけで426ページ、しかも二段組み。読む会では「鴨」ってどこですか〜?「倭」って「甲賀」って
どの辺なの?という素朴な疑問のせいで、やれインターネットで地図を出せ〜と大騒ぎ。おかげで本編につ
いては喋り足りない気も?全集が出版されてから、10年。もうそろそろ続きが出てもいいんじゃあないで
しょうか・・・?期待して待っております、古田先生!その時は是非、地図をお忘れなく〜。
さて物語は、本来主人公である筈の「甲賀三郎」の父、追鹿一族の辰王が子どもの時から始まります。そし
て三郎が登場するのは最後のほう。出て来たと思ったら眠ってばかりだし、まだ根の国に降りないうちにお
話は終わりになってしまう・・・。それじゃあ困る、やはり「辰王」の話は「外伝」って事にして、三郎誕
生から書き始めて欲しいよね、等と勝手な結論に落ち着いたのでした。登場人物たちはみな、揺れ動く運命
に流されまいと必死です。生まれてすぐに「御谷照姫みたにてらすひめ」の申し子にされてしまった、鴨の
若き王「若桜彦王わかざくらひこのきみ」。それを観ていたがために、鏡の戦士として操られる事を拒み、
鴨を出て倭に戻る侍女「三笠みかさ」。彼女を助ける雷神を捕まえる青年、後に倭の棟梁となる「八井部正
雄やいべまさお」。倭と連合して闘う甲賀の王、甲賀彦。その妹であり白ガラスを見る事の出来る巫女であ
る「卯花子うのはなこ」。「わざわい降り積もれ」と鬼女には呪われ、同時に白鳥からは「幸せ降り積もれ」
と祝われた追鹿一族の「辰王」。縦に絡んで来るのは、草女、角のある蛇、禍いの神、木乃花咲耶姫と、幾
つもの名前をもつ瀬織と敵対する、鳥女、白鳥、月になれない月(こちらも名前多数)・・・。登場人物は
どれも魅力的。ただ、倭と鴨の敵対関係がクリアでない。もう一方をただ悪として書くのではなく、人間同
士の戦いという視点から書きたいというのはわかるのですが、やや混乱します。後書き?で作者も書いてい
ますが、「一種イメージ増殖の物語でイメージがイメージを呼び、どんどん話がふくらんでいった」と。な
あるほど!話の筋とは関係ないイメージがどんどん湧いて来て、なかなか読み進めないという事態に実は陥っ
ていたのでした。この部分を読んで納得。そういう意味でも貴重な本かもしれません。私は最初の序章のよ
うなところで書いてい
る、「足日山という山があります。」というエピソードが好きです。ちなみに「足日」というのは本名。
「満ち足りた日々を送るように」とはなんとも素敵な命名ではありませんか?
  これを機会にあなたも日本の伝説や昔話に足を突っ込んでみませんか?神様の名前だけで舌かみそうで
すが。昔話の「おしまい」という意味の変な言葉が好きです。「それっきり」とか「そればっかり」とか「い
きがぽーんとさけた」とか。一番のお気に入りは「とっぴんぱらりの、ぷ」です。どれも意味わからないで
すけどね・・・。

10月は、いしいしんじ「プラネタリウムの双子」です。今年も終わりが見えてきました。星を観るにもい
い季節です。まあ、プラネタリウムじゃ季節は関係ないか・・・?ではまた来月。   ニイクラ

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185 児童文学を勝手に読む会 2003.08.20

楽園のつくりかた/笹生陽子


 寒くて雨ばかりのお盆休みが終わったとたんにこの暑さ・・・。気がつけば、日暮れも早く、空も高く、
火星も近付いたりして、そろそろ夏も仕舞のようです。みなさま如何お過ごしでしょうか?
 今回の本は課題図書にでもなったのでしょうか。それとも夏休みのせいでしょうか。なんと課題の本を
誰も持ってこれない!状態で話し合う羽目に・・・。たまたま、参加者全員が既に読んでいたので、事な
きを得ましたが・・・。夏休みは図書館の本が出払う季節。気をつけようっと。さてさて、エリートコー
スをひた走る事に情熱を注いでいる主人公星野優、中学2年男子。好きな事は計画をたてることで、予定
通りにいかない事が嫌い。心の支えは偏差値。座右の銘は「必勝」。わざわざ私立進学校に入学したって
いうのに、突然の「親の都合」ってやつで引越し&転校を余儀なくされる。しかも引越し先は、父の実家
で超ど田舎。同級生はたった3人?!そんなのってあり?ボケが始まり話の通じない祖父、田舎暮らしに
目覚め情熱を注ぐ母、シンガポールへ単身赴任中の父からはすっとぼけたメールのみ。当然、面白いわけ
がない。同級生と仲良くする気になんかなれない、星野くんなのだったが・・・?実は、このお話にはど
んでん返しがあるのです。ここでは触れませんが、いやあ、聴いてはいたのにまんまとやられました。
(読んでのお楽しみ!)すっかりだまされてしまいました。深読みしすぎたか?読む会では最初から「お
見通し」って人もいましたが・・・。
 さて作者の笹生陽子の出版されている本は全部で4冊。96年「ぼくらのサイテーの夏」でデビュー。
危険なゲームをした罰として、夏休み中のプール掃除をさせられる羽目になった6年生の少年二人のお話。
夏の退屈なだるさと山田ないとの挿絵が印象的。99年「きのう、火星に行った。」趣味はなんにもしな
いこと、というなんともやる気のない山口拓馬6年が主人公。病気の弟が帰ってきて・・・?最後は何故
か熱血ムードに。01年「さよならワルガキング」4年生の悪ガキ和哉は罰として塾に通う羽目に。さて
そこにいたのはマスクをかけた変なヤツ、橋本櫂。最初は利用してやろう、と思っていた和哉だったが?
と、どれも「嫌だなあ」と思っていた相手とだんだん仲良くなっていくというストーリー。それに比べ、
今回の「楽園のつくりかた」はそうではなく、対「誰か」ではなく、対「自分」というところが異色な感
じです。主人公の年齢もちょっと上がっているし?最後まで読めば、じたばた自分を状況に慣れさせよう
と頑張っていたのがわかるのですが、相手がいない事によって、少しズレというか、すう、っとした寒さ
のようなモノを感じます。まあ、主人公の性格が悪いってのもあるんですけどね・・・。登場人物が異様
に個性的?なせいで返って異常なストーリー展開にも違和感がない、という変わった作家でもありますね。
たった3人しかいないクラスメイトが、幼稚なギャグばかり飛ばす男の子に、前髪がながあく、その下に
はマスク、で口を聞かない女の子。すっごい美少女、の男の子。バイク乗りの謎の男に、執拗に追いかけ
てくる不良三人組・・・。それが田舎の過疎地帯で繰り広げられるのですから、普通の登場人物はいない
のか?!とも思いますが、実際人間なんてみんなちょっと変わっているものかも・・・、なんて納得しちゃ
うから不思議です。短いし、生活環境の激変に主人公と一緒に翻弄される感じで一気に読めるので、どん
でん返し、味わってみたい人にはおすすめかも。

 来月は古田足日「甲賀三郎・根の国の物語」。「全集 古田足日子どもの本」の別巻です。しかも未完!
終わってないくせに分厚い!そうでなくとも沢山作品のある作者なのに〜。ちなみに全集は全部で(別巻も
いれて)14冊・・・。ちょっとめまいのしているニイクラです。ではまた来月・・・。   ニイクラ

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184 児童文学を勝手に読む会 2003.07.16

水の精霊  第一部 幻の民・横山充男


梅雨、なかなか終わりませんねえ。去年の今頃は暑くてふうふう言っていた気がしますけど・・・?
こんな天気ではいまいち盛り上がりにかけますが、もう夏休みですね!皆様の夏休みはどうでしょう、海
へ山へ川へ、日頃は親しみの薄くなってしまった自然の懐へお出かけの予定はありますか?今回は偶然に
もそんな、自然描写が盛りだくさんのお話が題材となりました。現代の日本が舞台のファンタジーの小説っ
て初めて読むなあ、と思いながら読み出したのですが、冒頭はいきなり「都会」「イジメ」「政治」の殺
伐とした話。ううん?一体このオハナシはどこへ向かっているんだろう・・・?と不安になる頃やっとファ
ンタジー要素登場。舞台は移り四万十川のほとりへ主人公「山本真人」は旅立ちます。初めて行く父の実
家、高知県一条市。14歳になると受けるというセゴシの儀式「ミズチの儀」のために祖父の家で一ヶ月
を過ごす事に。初めてきかされる「セゴシ」という幻の民のこと。そして自分がその末裔で、異例の「ふ
た咲きの花」であること。「ふた咲きの花」とはセゴシの中から同じ日に生まれた男女で、強力な力を持
つ者が多いという・・・。セゴシの末裔たちはそんな真人とふた咲きの相手、「沢村みずき」に、この世
の中を救う事を期待し、さまざまな思惑をめぐらしてゆく・・・。ってなところで1巻は終わりなんです。
会には間に合いませんでしたが、2巻もちょうど図書館に入ったところだったので急いで読破。2巻目は
成長し、18歳になった真人中心の物語。しかも舞台は何故か京都。そののち京都のお寺をめぐったり、
水に関する記述が出てくるので、そちらの関係かも。そして最後は槍ヶ岳へ。でもストーリーはまだまだ
続く。あれえ、勝手に三部作だと思っていたけど、違うのかなあ?てな位ラストが想像出来ないです。壮
大なファンタジーとかっていう売り文句なんだけれど、ファンタジーと呼べるかどうかは意見の分かれる
ところでしょう。これから「セゴシ」をどう描ききって行くかでも違ってくると思います。さて「ミズチ
の儀」の為真人は、祖父に連れられ、山をのぼったり、野宿をしたり、魚をとったり。そういう自然の中
での生活や敬う気持ちは「これでもか!」と書かれています。自然が好き?な人にはおすすめの描写かな?
あまり好きではない人には自然賛歌がちょっとうるさいかも。登場人物の関係に複雑な伏線が張り巡らさ
れているようなのですが、今後どのようにそれが生きてくるのか気になるところ。ただ親戚同士が実は知
り合いだった、というのでは寂しいですし。感情の起伏の乏しい主人公なので、私にはやや物足りないし、
分かりにくいかな。あくまでも同じふた咲きの花の「みずき」が添え物的存在なのも残念。とてもピュア
で清廉潔白なキャラクターは最近お目にかかってないので、かえって新鮮ではありますが。真人が山で野
宿をしたりしている間、みずきの「ミズチの儀」は家にこもって「機織り」かよ!全てが真人中心にお膳
立てされているのがちょっとシャク。(関係ないが、この本、普通サイズのくせに読んでも読んでも進ま
ない。なんと紙が薄いのだ!456頁もあるのだ。目測を誤ったわ。2日で読めると思っていたのに3日
かかっちゃいました。最近だまされがちです。)
 さて作者の横山充男。高知県四万十川のほとりで「自然にまみれて」生まれ育ち、作品も自身の少年時
代を題材にしたものが多いです。「ひかっちょるぜよ!ぼくら」「少年たちの海」「少年の夏」は当時の
少年が主人公のお話。(たいてい舞台は夏。)幼年向けでは「夏のてっぺん」「またおいで!」など。梅
花女子大学で児童文学創作の講義をしていたそうで、「児童文学の書き方」なんて本もあります。自伝的
要素や自身の作品を使って説明している所から、その作品を読んでいるとなるほど、と興味深いところも。
高校教師を17年位続けていた上、神経症に悩まされ、出社拒否になりかけてしまい、このままではいか
ん!と創作童話の同人になり書き始めたそう。その体験が元になっているのか、登校拒否になりかけのエ
リート中学生が主人公の「星のシグナル」。問題を抱えた子供らや親を描いた「ぼくらは春に」。坂本龍
馬の生まれ変わりの男の子が主人公で、神社の屋根部分が船になって空を飛ぶという「ねこまの月船」。
(この作品をきっかけに坂本龍馬の伝記も後に出版。)このあたりの神社の背景が「水の精霊」にも通じ
る感じがします。通じると言えば「同級生」のカオルとトオルも前世の思いに捕われて、幼稚園の頃から
駆け落ちしたり。謎のアロファハウスをめざすというファンタジー。といろいろ書いている作家です。主
人公はふつうの少年。周囲を固めるのは、不良っぽい少年と、金持ちで気弱な少年、そしてボーイッシュ
で色白のマドンナ的少女。という設定が多いのが気になりますが。私のお気に入りは「少年たちの海」。
遠泳のお話です。海で泳ぎたくなりますよ〜。せっかくの夏休み、みなさんも自然に「まみれて」みませ
んか?

 さてさて来月は「楽園のつくりかた/笹生陽子」です。見た目共に短いお話ですよ〜。すぐ読めますよ〜。
夏休みボケしてたら是非遊びに来て下さいね〜。それではまた来月。          ニイクラ


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183 児童文学を勝手に読む会2003・6・18

若草物語/ルイザ・メイ・オルコット

 すっかり梅雨模様になり紫陽花の花も色をつけてまいりました。皆様いかがお過ごしですか?倦怠感
漂う季節のはずなのに、何故か毎年忙しくなってしまう月、6月。そんなわけで今月からまた新たな趣
味?が増えました。それは「ひとり銭湯ぶらり旅」。何かと出歩く事が多く待ち合わせまで時間が余る
事も多い月だったので、見知らぬ町でこっそり入浴。なんと東京にはけっこう「温泉銭湯」というお湯
が天然温泉のものがあるのですよ〜。値段も400円とリーズナブルだし、温泉好きだけどなかなか旅
行へは行けないわ、という方、トライしてみては?
 さて今回は若草物語(四人姉妹)。これもまた古典中の古典という感じの有名な本ですが、第四若草
物語まであるって知ってましたか〜?私は知らなかったですねえ。これまた出版社によって題名もちが
うのでよけいややこしい。しかも上下巻に別れていたりするとさらに混乱。若草物語、はマーチ家の四
人の姉妹、メグ、ジョー、ベス、エイミーの子供の頃のお話。続若草物語ではその四人の姉妹が結婚し
てゆく様が綴られた恋愛中心のストーリー。そして第三若草物語ではジョーは結婚し小さな学校プラム
フィールドを経営してゆくのだが、そこに通う子供たちのお話。子供たちの中にはメグやエイミーの子
供もいる。第四若草物語では、そのプラムフィールドの子供たちが成長して伴侶を見つけたりする様が
描かれている。とまあ、こんな感じでマーチ家の話は続くのだが、前半2冊と後半2冊の印象が違う
し、主人公たちも代替わりしてしまうので違うお話として読んでも面白いのではないでしょうか。アニ
メ化された「ナンとジョー先生」はこのプラムフィールドでのお話です。私は今回がんばって、第四若
草物語までを読んだのですが、第三若草物語が一番好みかな。若草物語を今回読み返してみての感想
は、「読んでも読んでも終わらない・・・」こと。岩波少年文庫版で以前読んだと思うのですが、こん
なに長かったかなー。それから「若草物語」の中では戦争へ行っていて出番のないお父さんですが、
「続若草〜」では帰って来ている筈なのにその描写が無い!というか少ない!これでは不在の父のほう
がはるかに色濃く存在感があったという不思議な現象に。しかし聞くところによると母権社会を描きた
かった作者が意図的にした事であったそうな。なるほど納得。小さな誘惑や、貧乏を乗り越えてゆくさ
まの描写が緻密だなあ、と改めて思うのです。見栄をはったり後悔したり、カンシャクをおさえたり、
人を許したり。「感情のままに怒りをまき散らしたりしない」事の苦労が描かれていて、うーん反省。
それにしてもエイミーがジョーの小説を燃やしちゃうのはひどいよなあ・・・。私にはジョーみたいに
許せないかも。そのあとのエイミーの成長ぶりもすごいけど。作者のオルコットの分身であるジョーの
小説にたいする情熱のありかたというか激しさがとても好きだったのですが、「第三〜」では忙しさの
あまり筆を折っているようだし、「第四〜」では一応成功したものの、ファンのひどさを嘆いているよ
うな描写のうんざりした様子から実際のオルコットも大変だったのだろうと察せられますね。
 さて作者のオルコットですが、生まれはなんと1832年。大草原の小さな家のローラ・インガルス
よりも以前というのだから驚きです。哲学者の父と共に各地を転々としながら家庭で教育を受けて育ち
ます。家族構成は若草物語の原型であろう四人の姉妹。性格も家庭的な姉、病弱な妹と、物語と同じよ
うです。しかしオルコット自身は温厚な父の性格を受け継がず、「こしょうのナン家」という母方の性
格を受け継いだらしく、生涯苦労したというのだから、それを克服してみせた母を尊敬するのも当然と
いった感じでしょうか?第四若草物語を最後の作品として、その2年の後に57年という短い生涯を閉
じています。若草物語の他に「昔気質の一少女」「八人のいとこ」「ライラックの花の下」「花ざかり
のローズ」などが角川文庫で出ていますので、興味のある方はどうぞ。

 来月は「横山充男/水の精霊 第1部 幻の民 」です。きっともう暑いんだろうなあ。
ではまた来月。   ニイクラ

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182 児童文学を勝手に読む会 2003・5・21

「バレエ・シューズ/ノエル・ストレトフィールド」

 春眠覚めやらず梅雨に突入か?!眠気のとれない最近です。皆様如何にお過ごしですか?
 さて少女小説第二段「バレエ・シューズ」。前回の「赤毛のアン」との共通点は「孤児の女の子」
が「引き取られた先で暖かく見守られ成長」し「生まれ持った才能」と「努力」で、成功する、と
いうサクセスストーリーだという事でしょうか。お話のあらすじは・・・とてもえらい学者で、世
界一素敵な化石のコレクションの為に家を一件買ってしまうような裕福な大叔父ガムは、化石の収
集や、航海に出たきりいつ戻るかわからないという勝手気ままな性格。その間家のめんどうをみる、
甥の娘シルヴィアと乳母のナナの元に、ガムがお土産として持ち帰ったのは、なんと赤ん坊だった!
そんなわけで旅行先から集められた子供たち、ポーリーン、ペトロヴァ、ポージーのフォッシル
(化石の意。ガムが命名。)三姉妹。彼女たちは、シルヴィアやナナに見守られすくすくと育つが、
いかんせんガム大叔父が旅行から帰らぬため、一家は貧乏で仕方なく下宿人を置く事にする。やが
て、下宿人であるシーオの勧めで月謝免除で12歳になり舞台にたてるようになればお金を稼ぐ事
も出来る、児童演劇舞踊学園に入学する事になる。もともと、ポーリーンは暗唱が得意で演劇向き、
ポージーはバ レリーナであったという母親ゆずりの素質をもっていたが、真ん中のペトロヴァと言
えば、機械の事にしか興味がないという女の子。家族の皆を助けてお金を 稼ぐ事が出来ればと、嫌
々学校へ通うのだった。そんななかでフォッシルきょうだいは誓いをたてます。
「われら三人のフォッシルきょうだいは、われらの名を歴史の教科書にのせるべく、努力すること
を誓う。フォッシルの名はわれらだけのものにして、おじいさんがえらかったからなんて、誰にも
言えないからなり!」訳が古くさく感じるのは置いておいて、あなたもフォッシルきょうだいと共
に初心に帰って(何かの)誓いを新たにしてみては如何でしょうか?!
 さて作者のノエル・ストレトフィールドは牧師の父親のもと4人兄弟の次女として生まれ、王立
演劇学院を卒業後、女優として各地を巡業している人なので、それらの経験が活かされた物語を多
数書いています。子供たちが演技やらで身をたてる小説の事をキャリア小説または職業小説と言う
らしいんですが、そ れの第一人者と言ったところでしょうか。絶版で図書館にすら置いていない作
品も多かったのですが、シューズシリーズとしては、バレエ・シューズ、貧乏な牧師一家4人兄弟
の話である「ファミリー・シューズ」(家族っていいな)、その後のフォッシルきょうだいがゲス
ト出演している「ムービー・シュー ズ」(映画に出た女の子)、カーネギー賞受賞の「サーカスき
たる」位は置いてある確率が高いのではないでしょうか。データ上では「白いスケートぐ つ」(多
分メグ・ライアンが言っていたのはこれでしょう)、「愛のテニスシューズ」、「アンナのバレエ
シューズ」などがあります。検索する場合は、ストリートフィールドだったり、ストレットフィー
ルドだったりと表記が違うので、根気良く調べて下さいね。
 というわけであまりバレエのお話じゃないんですね。実は。ご都合主義的ではありますし、女性
蔑視的な発言が気になったりもしますが、お金の為に懸命に頑 張る彼女たちや、癇癪をおこしてし
まったりする姿がイキイキと書かれていて魅力的です。なんと映画にもなっているそうなんですが、
86年頃の話なので、 ちょっと探せませんでした。残念。映画といえば、メグ・ライアン、トム・
ハンクス主演のロマンチック映画「ユーガッタメール」にノエル・ストレトフィールドの名前が出
てくるんだよ〜とかいう一言についレンタルしてしまいました。ストーリーはひどかったですが、
確かに言ってました。「ストレトフィールド よ。バレエとスケートの話があるけど、あたしのお
勧めはバレエのほう。いい話だけど、絶版なの」って・・・。アメリカでも有名でそして絶版の道
をたどっ ているようですね(笑)
(そして映画といえばルイス・サッカーの「穴」、「ホールズ」の名前で公開予定らしいのです。
楽しみ〜。)

さて来月はまたまた?少女小説「若草物語」。
覚えてますか〜?私はがんばって読み返さなくては! ニイクラ

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181 児童文学を勝手に読む会 2003・4・16

赤毛のアン/モンゴメリ

  あっと言う間に桜も散って春。三寒四温でお天気も不安定ですね。如何お過ごしでしょうか。
さて今回の読む会はなんと?!「赤毛のアン」。シリーズだけで10冊!関連書も多数!アニメに
もなったし、映画にもなった。(この日本版のアニメは世界 に輸出されていて、英語版はなんと字
幕つきで日本のスカパーで逆輸入され放映されてました。英語の勉強用にちょうどよいらしく、人
気だそうです。)流石 に知らない人もいないでしょうという有名っぷりの「アン」ですが、シリー
ズ全部を読破した人は意外に少ないよう。きっとむちゃくちゃコアなファンが身近 にいる筈、と思
っていたのですが残念ながら見つかりませんでした。私はおろか、私の友人にさえ、「アンが好き」
だと思われていた私の母をアテにしていた のですが、「特に好きじゃない」って爆弾発言をされて
しまうし。じゃーあのずらっとあった篠崎書林の本や文庫はなんなの?!と思って記憶を思い起こ
すと、どうやらモンゴメリではあるけれど「パットおじょうさん」や「エミリーはのぼる」で「ア
ン」のシリーズではないのでした・・・。さてそう言う私も アンを「大好き」と感じた事はなかっ
たのですが・・・。不思議なもので生活に染み込んでいるのか図らずも詳しい自分がそこにいるの
でした。カナダのプリンスエドワード島を舞台に繰り広げられる、みなし子アンの物語。アンは男
の子の孤児を貰おうと思っていたマリラとマシューのカスバートきょうだいの家、グリーンゲイブ
ルズ(緑の切り妻屋根の家)に間違えて貰われてきます。人と喋るのが苦手な筈のマシューが何故
かお喋りで(1ページ以上は喋る)空想癖がありロマンチストでやせっぽちのアンを気に入ってし
まいます。腹心の友ダイアナや天敵のギルバートらと、楽しい少女時代を送ります。髪を緑に染め
たり、屋根から落ちて足を折ったり、ダイアナを酔っぱらわせたり、痛み止めの薬入りケーキを焼
いたり・・・と、うっかり者のアンですが、「赤毛のアン」以降の「アンの青春」や「アンの愛情」
あたりではすっかりはちゃめちゃぶりはナリを潜め、優秀な勉強家へと変貌を遂げます。その辺り
が「アンは結婚する位まで読んだけど、始めのが一番面白かった」と言われがちな理由ではないで
しょうか。
 流石に100年位前に書かれた事もあって、訳も出版社もいろいろ出ているので、読み比べも楽
しかったですよ。「腹心の友」は「宿命(さだめ)の友」、「運命の友」、「ちかしい魂」は「あ
いよぶ魂」、「心の同類」と訳者もそれぞれがんばっているなあ、という感じ。しかし作者のモン
ゴメリは「赤毛のアン」シリーズはあまり書く気がなかったというから驚きです。人気が出てしまっ
たため続編を望む声が高く書き続けるはめになってしまい、少々うんざりされていたようです。
「赤毛のアンのモンゴメリ」と言われる事が嫌だったそうだけど・・・。やはりつい言ってしまい
ますよね、赤毛のアンのモンゴメリって。
 さて私は子供の頃に「アンの青春」まで読んだきり。好きじゃないと言う割には、アニメも観た
し、そういえば映画も観た。「赤毛のアンの手作りノート」って本も持っていた。その頃の私は赤
い切り妻屋根の家の屋根裏同様の天井が斜めになった部屋に住んでいて、窓からは白い桜の木が枝
をのばしており・・・という状況だったので、アンの世界に入るのは楽ちんでした。記憶をたぐり
よせるようにして今回は完訳シリーズの「夢の家」まで読破。でもまだ半分はシリーズがあると思
うと気が重い。しかし今回読んだ感想は、「読むのに時間がかかる」事と、こんなに「勉強するん
だっけ?」という点。勉強家だな〜アンって。それもかなりな優等生じゃないか。なんだか劣等生
のイメージがあるんだけど。ダイアナがあんなに現実主義者だと思ってなかったし。時間を経てか
ら読み返すと随分と違ったものの見方が出来ておもしろいですね。アンシリーズの面白さは人物描
写にあると思うので、いろんな人と出会った大人になってからのほうが面白いのかもしれません。
児童文学と呼べるのは始めの一冊だけのような気がします。その後もやんちゃな子供の描写は目を
まわす程ありますけども。時代が変わっても人間の性格ってそんなに変わらないものなのかもしれ
ません。それが読み継がれ愛され続けている所以かも。さーあなたもアンの続きを読んで、まわり
の誰かさんに似た人を発見してみては如何?

さて来月は「バレエシューズ」。なんだか少女小説?が続きそうな予感・・・。   ニイクラ

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180 児童文学を勝手に読む会  2003・03・19

黄色い目の魚/佐藤多佳子

  先月の予想通り、というかなんというか。またもや本を借りれませんでした。渋谷で二人めの予
約だったので、いけるかなーと思っていたのですが、残 念。(一月前から借りっ放しの人がいて、
当然返から、あっという間に破れが出来たりして。背も割れそうだし。本を持ち歩き電車や待ち時間
に読書する私としては、もう少し、頑丈な本にして頂けると嬉しかったなあ。豪華でなくていいから
さ、頑丈にね。
 さあてと、本題。主人公は、ショートカットのきっぱりとした性格の村田みのりと、人の似顔絵ばっ
かり落書きしている、サッカー部でゴールキーパーの木島。舞台は鎌倉。高校2年の恋愛模様と。8
個の短編集のようになっていて、小学生の木島が初めて生き別れた父、「テッセイ」に会う話や、村
田みのりの中学生時代、など過去の話もある。イラストレーター兼漫画家の叔父をもつ村田は、絵を
描くのは得意ではないけれど、絵の周りにいる事が好き。叔父の「通ちゃん」が家族よりも好きなみ
のりは、よく「通ちゃんチ」に入り浸っている。ただいるだけではなくて、食事を作ってみたり、個
展用に作品をまとめたりと管理もしている。一方木島はの脳卒中で倒れた祖父の家に母と妹と越して
来る。そんな二人は美術の授業で、前に座っている人を描く事になる。それ以後、絵を描く事を中心
に二人は親密になってゆくのだが・・・?サッカー部いきつけのカフェの「似鳥ちゃん」や、木島の
妹の「玲美」と個性的なキャラクターが脇を飾りますが、個性的ゆえに「その後どうなったんだろう
か・・・?」と考えてしまいがち。村田みのりという女の子のキャラクターのきっぱりしたところや、
どろどろしたところもすごく素敵に描けているのだけれど、何か一つでも彼女が夢中になれる道とい
うものが出て来てくれると、読んでいて嬉しかったかな、と思うのです。もっと動いてもいいかなあ、
と。木島には二つもあるのにさ。絵と、サッカーと。でもサッカーはあくまでも「下手!」でその描
写が素敵でした。なにもヒーローばかりが主人公ではないのだ。父親の「テッセイ」もダメさかげん
がとても良かった。(もしからしたらちょっとダメな人間を描くのがすごい上手い人なのかもしれな
い。)初々しい初恋物語って感じで良かったのですが、「ずいぶんながい事、女の子とやってない」
という木島の一言には違和感が!その一言はいらないのでは?という意見が多かったですね。何か無
理に経験アリにしているみたいで、気になってしまう。他のどこを読んでも木島が経験豊富な17歳
には見えないんだけどなあ。さてさてもともと、村田みのりの中学生時代の話が短編としてあり、そ
の他は(10年後に)書き足す形になっているみたいなのですが、なぜかやっぱり木島のほうがイキ
イキしている感じなのね。物足りないわ。みのりちゃんにも同じ位イキイキしてほしかったわ。しか
しラストはなんというか、若いっていいわねー。若さってそういうモノよねー、と初々しいところで
おしまい。やはりその後が気になってしまう私なのであった。舞台が主に鎌倉で、吉祥寺や新宿も登
場するので、ほうほう、こんな場所ね、とやけにリアルに想像出来て楽しかった。今の日本が舞台の
話を最近あまり読んでいないのだな、と再確認。
  さて、作者の佐藤多佳子、「サマータイム」「9月の雨」でデビュー。これも中学生の恋のいっ
ぽ手前くらいの人間模様。ちょっと森絵都の「アーモンド 入りチョコレートのワルツ」を彷佛。たん
にピアノがテーマって事だけかもしれないですけども。童話に「レモンねんど」「おかわりいらない?」
「ハンサムガール」「イグアナくんのおじゃまな毎日」。大人向けには「しゃべれどもしゃべれども」
「神様がくれた指」。「しゃべれども〜」は本がこれまた返却されず未読。漫才の話らしい。「神様
が〜」は、なんとスリと占い師の話、という奇想天外さ。いやあ、スリの世界の事は知らないのでと
ても新鮮で楽しく読みました。次はどんなものを描いてくれるのか楽しみです。

なななんと?来月はあの有名な「赤毛のアン」。取りあえず本が借りられない、という心配はなさそ
うなんですが逆に誰の訳で読むか?とかどこまで読んだら 良いのか?と複雑な心境です。


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179 児童文学を勝手に読む会 2003・02・19

ムーミン谷の11月/トーべ・ヤンソン

  冬も緩み、風もぬくみ初めて参りました。「桜より梅が好きになったら年かな?」等と笑いな
がら、私は友人と深夜の公園に梅観散歩へ。夜桜ならぬ夜梅?ほのかな香りがまた良くてとても素
敵でした。昔は梅の花とか嫌いだったのになあ、今は可憐と思ってしまう自分自身の変化がとても
不思議です。
 さてさて今回の読む会は二度もアニメ化されているし、知らない人もいないのでは?という位有
名なムーミンです。ムーミンは冬眠するので冬に活躍する話はあまりなネい筈なのに、何故かムー
ミンのイメージは寒い冬なんですよね、私の場合。「ムーミン谷の11月」にはムーミントロール
の一家はなんと登場しないんですねー。というわけでお話はムーミン一家以外の仲間たちにゆだね
られます。おそうじの出来なくなったフィリフヨンカ。自分自信Mにお話を聞かせる事にしている
ホムサ。ヨットをもっているのに一度も乗った事のないヘムレンさん。なんでも忘れる事にしてし
まったスクルッタおじいさん。実は?看板が大嫌いなおなじみのスナフキン。ムーミン一家の養女
になってしまった「ちいさいミー」の姉であるミムラねえヲさん。彼等はそれぞれムーミン一家を
めざしてやってきたところ、家はもぬけのから。ムーミン抜きでどこかちぐはぐな登場人物たちが、
それぞれ自分勝手にふるまいながら、ムーミンたちに思いを馳せ帰りを待つのでした・・・。
  ムーミンシリーズはテレビで見た事あるから読まなくていいや、と原作を読んでいない人も結
構いるのでは?そういう私もそうなんですが、なんてもったいない事をしていたのだろう!無念。
とても自分好みの世界だったのでした。(ムーミン以外は読んでいるくせにね・・)困った人もい
るけれど、自分自身を曲げずに人々が共存している、ムーミン谷はそんな所素敵なところでした。
ただ、「つじつまをあわせる」という事は、作者にとって割とどうでも良い事であったらしく、突
き詰めて考えると頭が混乱する箇所がいくつかありましたが、そこは気にせず読むのが良いようで
す。(ミムラねえさんが同一人物だったとするとミーはスナフキンのおばさんに?!)その上種族
の名前と個人の名前がごっちゃになってしまいがちなので、混乱するんですよね。ムーミントロー
ルのムーミン。ムムリクのスナフキン、スノークのおじょうさん、へムルはヘムレンさん。(へム
ルは普通とか凡庸とかって意味らしいです。納得?)私が好きなのは、小気味のいい皮肉やっぷり
のミーと、お話が好きなホムサのトフトかな。あなたのお気に入りは誰ですか?冬が終わる前にあ
なたも心のムーミン谷へ、たまには旅してみるのも良いのでは?きっと新しい発見がある筈。
  読む会にはムーミン好きのかたがムーミン人形一式(冬バージョン)をお土産に持って来てく
ださったり、ムーミンランドを訪ねた時のお話とかを聞かせてもらい、楽しかったですよ〜。なん
でも日本ではスナフキンが人気があるが、本国フィンランドではムーミンパパのほうが人気だとい
う意外な?お話も聞かせてもらいました。
  作者のトーべ・ヤンソンはムーミンシリーズの他に、大人向けの小説も書いています。こちら
はちと難解、哲学的、さらに拍車のかかるシニカルさ、といった感じです。凍てつく夜のお供にど
うぞ。フィンランドの夏休みは長くて、それぞれ自分の島の別荘で過ごすのが一般的らしいのです
が、そんな夏が舞台になっているのは、子供向けの「少女ソフィアの夏」。自伝的小説の「彫刻家
の娘」
。私が特に好きな主人公に共感してしまった二冊です。大人向けの島の話はこちら「島暮し
の記録」
。ムーミンシリーズの中で好きなのは偶然にも?今回の「ムーミン谷の11月」。ミムラ
ねえさんがなんといってもかっこいいのです。

さて来月は佐藤多佳子、「黄色い目の魚」です。借りられるのか〜?心配です。 ニイクラ

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178 児童文学を勝手に読む会 2003.1.15

ダイブ!!1〜4/ 森 絵都

 さて正月太りをちっとも解消出来ぬまま、異常食欲の続いている私ですが、皆さんは如何お過ごし
でしょうか・・・。
 今回はそんな私にはちと辛いスポーツのお話、ダイブ。つまり飛び込みのお話なんですね。作者初
の「スポ根もの」。中2でまだまだ未発達だが未知の可能性を秘めた「ダイアモンドの瞳」を持つ、
知季。飛び込み界のサラブレッドで父親がダイビングクラブのコーチでもある優等生で高校生の要一。
非運のダイバー沖津白波を祖父に持ち、岸壁の上からしか飛び込んだ事の無い野生児、飛沫。その3
人に、アメリカ帰りの謎の美人コーチ夏陽子が絡み、クラブ存亡の危機を賭けオリンピックを目指す!
・・・というどこかの漫画で読んだ事のアリソな設定で、お約束通りに物語は進みますが、それを上
手にまとめあげたのは作者の手腕でありましょう。軽く読めるし、没頭して楽しめる。4冊揃えてか
ら一気読みするのが良いのでは。それもと一冊ずつ、じりじりしながら楽しんでみるのもいいかも?
 「飛び込み」いうマイナースポーツが主題なのもうまい。メジャーなスポーツでオリンピックを目
指すという設定だとどうしても、うっそだあ〜という突っ込みを入れる事必須だが、ルールさえおぼ
ろな状態だとすんなりとその世界を楽しめる。しかも水泳の経験は皆少なからずある筈で、プールの
雰囲気はばっちり蘇るし、親しみもわきやすい。私は夏合宿のプールには飛び込み台があったなあ、
と古い記憶を手繰り寄せ、想像力を逞しくしたりして、楽しみました。しかし読み終わってもルール
がめんどうって事位しかわかんないんだけど・・。かねてからスポ根コミックはそのスポーツの人気
向上に一役もフタ役も買っている!と信じて疑わない私ですが、この作品もそういう一つと言えるの
ではないでしょうか?絶対、次のオリンピックは「飛び込み」に注目しちゃう事請け合いなのだ。内
容的には突っ込みたい箇所が幾つもあるんだけど、(飛沫の設定とかさ。田舎の描写とか。女性の描
写とか。)それ以上に、スポーツの感覚、摂生して、努力して、目標に到達出来るというプロセスが
とても素敵に楽しめる。男の子達も可愛いしね。さあ、あなたも今年の計画の中に何かスポーツを書
き加えてみます?
 さて作者の他の作品ですが、幼年向けのものに、武田美穂とのコンビ作で「にんきもの」シリーズ。
こちらもマンガみたいですが、私は1番目の「にんきもののひけつ」が好き。爆笑しました。ヤング
アダルト向け?にデビュー作の「リズム」「ゴールドフィッシュ」「宇宙のみなしご」「アーモンド
入りチョコレートのワルツ」。最近のものはちょーっと道徳的な気がして作者はどこへ行こうとして
いるのだろうか?と首をかしげてしまいますが「つきのふね」や映画化のウワサのある「カラフル」
があります。他にもいろいろあるので興味のあるかたは探して見て下さい。

 そして来月はム−ミン。「ム−ミン谷の11月」。まだまだ寒さは続きそう・・・。まだまだ雪が
降ったりするのでしょうかね。みなさんインフルエンザに気を付けて!それではまた来月! ニイクラ

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