児童文学を勝手に読む会 1999年度版

1999・12 
スーザン・クーパー/光の六つのしるし
1999・11 
ローラ・インガルス・ワイルダー/長い冬
1999・10
神沢利子/ちびっこカムのぼうけん
1999・9 
重松 清 /エイジ
1999・8 
アーサー・ランサム
1999・7 
竹下 文子/黒ネコサンゴロウ

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児童文学を勝手に読む会   12月 スーザン・クーパー
 
 闇の戦い 1光の六つのしるし/評論社
      2みどりの妖婆
      3灰色の王
      4樹上の銀
 
 今回はスーザン・クーパーの「光の六つのしるし」でした。
 クリスマスが近いこともあって「クリスマスに関するお話」というセレクトだったのですが、どうでしょうか?
このお話は、クリスマスそのものが主題のお話ではないし、サンタクロースも出てきません。けれども、クリスマ
ス時期の冬のぴんとはった空気や、神聖な気持ち、人を思いやる気持ち、家族が沢山がやがやいて遠いけれども暖
かい。そういう情景がちりばめられた作品でした。私としては大家族ってめんどくさそうであまり良いイメージが
なかったのですが、「親対子」ではなくて、「親対子供達」のあまり密接ではない距離感がとても好ましくて、今
の核家族に足りないのはこういう感覚なのではないかなあ、と考えさせられました。あまり密接な関係って息苦し
いですよね。
 物語は9人兄弟の末っ子のウィルが、11歳の誕生日を境に「古老」として目覚める所から始まります。「古老」。
原書では一体どういう単語だったのか見当もつかないのですが、闇と戦う魔術師?のようなもので、時間軸を自由
に移動でき、人類とは別の次元の存在…。難しいですねえ。このお話はどうも、ケルト神話やイギリスの古来伝承
の物語等を下敷きにしているらしく、その方面にうとい私には解りにくいモチーフも沢山。ちょっと勉強したいと
も思うのだけれど、そういったものってあまり訳されていないのです、実は。
 そういった面では以前題材になったアラン・ガーナーの作品や、シリーズヒーローものとしての「プリデイン物
語」を彷佛とさせます。見開きの絵が恐い。訳が古い。つまらない、といった意見もありましたから、いずれにせ
よ、児童文学といっても皆に読んで欲しいというよりは、自分の趣味がわかってきた人向けの本ですね。ファンタ
ジーや長編、どんどんこい!という方にはおすすめです。
 それはちょっと…という人には、同じくスーザン・クーパーの「古城の幽霊ボガート」「ネス湖の怪獣とボガー
ト」。もう少し若い人向けで、どたばた楽しい作品です。書かれたのも新しくパソコンの話も絡んでいて、現代風
のお話です。やんちゃなボガートがかわいいですよ。
 他にも「海と島のマイリ」という絵本もあります。これもケルト神話がモチーフの海の王の娘が三人、ふだんは
アザラシの姿で年に一度だけ、人間の姿にもどるというお話。日本の羽衣伝説にちょっと似ています。
ウォリック・ハットンの絵もきれいな美しい本です。
 ところで、この「闇の戦いシリーズ」にはなぜか「コーンウォールの聖杯」という物語の最初にあたる作品も学
習研究社から出版されているのですが、(しかも絶版。図書館にすらほとんど置いていないという有様。)版権の
都合上同シリーズ化は出来なかった、ということらしいのですが。読者としては困ってしまいますよね。というわ
けで、気に入った方はお近くの図書館でさがしてみてくださいな。
                                              にいくら
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児童文学を勝手に読む会 十一月 ローラ・インガルス・ワイルダー
  
 長い冬 上・下  岩波少年文庫

テレビシリーズの放映もあり,知らない人は少ないのではないかと思われる
「ローラ」の大草原シリーズ。
しかし、これが本当のお話だってことを知っている人は意外と少ないようです。
伝記や料理の本まで、幅広く「ローラ」関係の本は出版されていて、
どこから手をつけてよいやらといったかんじでしたが、
とりあえず、本編だけを通して読み返してみました。久しぶりです。
読み返してみて思うのは、自然環境のきびしさ。
牛が凍りつく、吹雪きで納屋まてたどりつけない、
大草原の火事,などなど、ちょっと想像がむずかしいような事が次々におこります。
その中でまっすぐに成長してゆくローラ。

昔は今よりももっと急いで成長しなければならなかったのだと、感じさせられます。
成長というのはある程度必要に迫られなけれぱ、出来ないものなのかもしれませんね。
ローラの場合は姉のメアリーを盲人の大学へ行かせてあげたい、
という気持ちがその引き金になっているように思われます。
シリーズ中出てくるクリスマスのシーンはどれも素晴らしくて、近頃少し遠ざかり気味な、
「誰かを想う気持ち」の大切さが身にしみます。もうすぐクリスマスですしね。

「神様はおれたちを自由なものにお創りになったんだ。
だからおれたちは自分で自分のめんどうを見なきやあならないってことさ。」
これはチヤールズ父さんの言葉です。
自由になりたいと切実に願っていた14の頃、私をたった一言で、自由にしてしまった友人がいました。
「あなたは自由でしょう?」
自由でないという反輪が出来なかった私は、仕方なくそれを認めざるを得なくて、悔しい思いをしました。
結果的に私は私から自由になりたいと思っていたことに気付かされてしまうわけだけれど。
自由というのはすごく気ままなことのように見えて、実はその逆のようなもの。
自由を手に入れる為にはそれなりの努力をおしみなく続けなければならないのですよ。
やれやれ。そして自分の気持ちひとつだということ。
この言葉はそれをすごく的確に言い表わしていると思いませんか。

とてもひもじくて、がまんを重ねたあげくに、与えられる「おいしいもの」。というシチュエーションが
私は大好きなのですが。今回のアルマンゾのホットケーキはもう、たまりません。
あと、「小公女セーラ」の拾ったお金を届けてもらう甘いパンとか。
迷いねずみの見つけた「パタつきパン」とか・・・。
今回はホットケーキをしっかりつくって満喫させていただきました。ごちそうさまでした。

日曜学校に通っていたこともあり,毎適テレビシリーズも見ていた事もあって、
私はいとも簡単にローラに感構移入していたのですが、(ちょうど年齢も近かったので)
妹は「あんなもの、どうせドラマよ。」と思っていたらしい。
同じ姉妹でも随分違うものですね。

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児童文学を勝手に読む会 十月 神沢利子

ちびっこカムのぼうけん

 今回は幼年童話の長編です。「ウーフ」や「バーバちゃん」でおなじみの、
神沢利子さんの初期の作品です。
幼年童話は大人が読むには難しいジャンルだと思います。
本当に大人と子供は違うんだ、ということを、思いしらされます。
つまり、子供が喜ぶツボと、大人が期待するツボは違う!ということですね。
いないいないばあ、をあらためて一人で読もうと思う大人がいないのと同じで、
大人には何がそんなにおもしろいのかわからない、子供だけの
共通のツボが、幼年童話にはあるんですね。そういえば、うちの妹も「また借りるの?」っ
ていうくらい、くりかえし、くりかえし何十回も「バーバちゃん」を借りていたっけ。
 そういった幼年童話にしては、長いおはなし、ちびっこカムを読んで驚かされたのは、
そのイメージの鮮烈さ。短く、テンポのよい言葉が的確にイメージを運んでくるのです。
お話は昔ばなし的要素がちりばめられ、少年カムは病気の母を助けるため、
イノチノクサをさがしに山へ、そして、鯨に変えられてしまった父のために、海へ、
仲良しのトナカイをつれて、おおいそがしの冒険です。
助けた動物の恩返し?もあって、カムはみごとにやりとげます。
なかでも北斗七星の、ひしゃくをひっくり返そう、という壮大なスケールに、ただもうびっくり。
 読み聞かせるには少し長くて大変だけれど、「おはなし」に興味を持ちはじめた位の子供に
ぴったりなのでは?

 神沢さんは本当に沢山本を書いていらっしゃる。
図書館の検索では、なんと197件。新装版などで、タイトルがだぶってしまうものがあるに
しても、すごい。その中からもうすこし。
「いないいいないばあや」これは、恐い。忘れていた、子供のころの「感じ」が蘇ってきます。
大人の言葉で、こんなに忠実に、子供の世界を書ききれるとはすごいことですよ。
子供の頃にかえりたいなんて、
考えている人におすすめ。読んだらもう、そうは思えなくなるかも。本当に戻ってみたい?
幼年童話はちょっと・・・、という大人の方には同じく、神沢さんの、「おばあさんになるなんて」
がよろしのでは?神沢さんのひととなりが、伝わります。
 今回の会は、神沢さんやそのご家族と、面識のある方が多くいらっしゃって、
わたしとしてはすごく新鮮でした。ふだんは遠い、作者と読者の関係が少し、近くに感じられました。

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 児童文学を勝手に読む会 九月 重松 清 

  エイジ 

 登場人物に感情移入出来る、ということが読書をする楽しみのひとつだと、
わたしは思うのですが、みなさんはいかがですか?
 そしてわたしはこの作品にはそれが出来ませんでした。残念。
他の作品も、兄弟の理由なき自殺、ニュータウン内での大人のいじめ、
定年後のよりどころのなさなど現代的、社会的な問題が取り上げられていて
そちらのほうにリアリティがあるだけに、登場人物との差が感じられ、
なにか足りない、うすっぺらな感じがどうしてもぬぐえない。
女性の描きかたも気にくわない。
これ、絶対男の人が書いたでしょうって、わかっちゃうよ。

「エイジ」もそう。大人が考える現代少年像はここまでが限度?
一生懸命十代の取材をしましたって気持ちは伝わってくるのだけれど。
主人公のエイジが作中でも言われてしまうように「精神優良児」であることに、
いいわけされていると思う。
 だって、エイジは良い子すぎるもの。
ふつうはこんな良い子な筈ないじゃない、ってどうしても感じてしまう。
 エイジは現代の親が望む「ふつうの子供」のボーダーラインのようで、ちょっと淋しい。
完璧な良い子は諦めても、ここまではこうあってほしい・・・というような。

 ふつうに、良い子を求めることじたい、ちょっと違うのではないかしら?
個人的に気に入らないところはあるけれど、ラスト近くの疾走感は爽快だし、
ほっと一息つけるラストもありがたい。
気に入らなくても、一気に読ませてしまうのは、やはり文章のうまさだろう。

 わたしの学生生活は、といえば幸い?集団レベルのいじめはありませんでした。
(個人的ないじめは勿論あったし、いじめられもした)でも、学校も先生も嫌いだったし、
いかに人と一緒にされないか、ということに心血を注いだ、
ちょっと特異な生活だったので、よけいリアリティが感じられないのかもしれません。
その頃、ふつうとひとくくりにして、私(と友だち)が忌み嫌っていたほとんどの生徒たちは
もしかしたらこんなことを考えていたかもしれないなあ、とふと思ったりして。
その時に読んでいたのなら、私ももう少し理解を持って接することが出来たかもしれない・・・
んー、やっぱりむりかな?
 とりあえず、ほんとの十四歳に、感想が聞きたい作品ですね。いろいろ考えさせられます。
学校って、楽しいところだったらいいのにね。

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 児童文学を勝手に読む会 八月 アーサー・ランサム

  7月は、船と海(と、ねこ)のお話でしたが、今回も船と、冒険のお話です。
  今回はいつものメンバー以外にも、たくさんの方がいらっしゃいました。
  いまもなお、ファンを獲得しつづける、魅力的なストーリーならではのことではないでしょうか。
  しかし、この本の厚さ。やはりとっつきにくさ、は残るでしょう。
  わたしも今回はじめて、読むことになりました。
  一巻のはじめ、物語りに入り込むにはちょっと時間が必要かな?
  衝撃的な事件が起きるわけでもなく、物語りはたんたんと、念入りに進みます。
  ぐいぐい引き込まれる、というよりは、気がついたら、そこにいた、というかんじです。
  7巻から読みはじめては?という意見も。
  一応、一話完結の形を取っているので、どこから読んでも大丈夫そうです。

  びっくりしたのは、子供たちだけで、何日もキャンプ生活をさせてしまう、という背景ですね。
  時代や、土地柄もあるでしょうが、今はなかなかそうはいかないのではないのでしょうか。
  ウォーカー家のお母さんも、ゆとりがあって素敵です。

  夏休みの解放感、子供の生活と、冒険。そんなものに、どっぷりつかれる、お話です。
  いろいろといそがしい夏休み中ですが、あなたもペミカンとラム酒片手に、
  探検家になるのは、いかがでしょうか?

  わたしとしては、スーザンの境遇に、感情移入しがちなのですが。
  うちの妹は、どうやら違う意見のようです。

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 児童文学を勝手に読む会 七月 竹下 文子

  黒ネコサンゴロウ シリーズ
    
  著者の竹下文子さんは、幼年童話からYAまで、幅広く書いている人です。
  (図書館では80册くらい入っています。)
  夫でもある鈴木まもるさんとのコンビ作も、いっぱい。
  特にこのサンゴロウはシリーズものなだけあって、思い入れも強いようです。
  旅のはじまり」では少年ケンが主人公?と思わせるけれど、
  「キララの海へ」からはサンゴロウ中心のお話です。

  むずかしくないし、ハラハラドキドキ楽しめるし、
  なんといってもサンゴロウのスキのないカッコ良さ。
  イカマルはあれからどうなったの?ブロックってなに?やまねこ族って?
  全部に答えがでていないからこそ、想像する楽しみもあるというものです。
  著者はまだまだ書き足りないようですし。
  自分なりの「船に乗るねこ」の世界を思い描いてみてはいかがでしょうか。

  幼年童話は卒業。でも、あんまり長い話はちょっと・・・という
  小三の男の子が楽しんで読めそうです。
  これでシリーズものの魅力にはまったら、次はタランのプリデイン物語を読んでみては?

   ちなみに、図書館では「怪談もの」と「怪傑ゾロリ」が人気のようですが。

                          にいくら。

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