この頃読んだ本

 ひつじが最近読んだ本を中心に、感想をおしゃべりしています。
 児童文学・ファンタジー・ミステリー・SFなどが多い。あなたの感想も聞かせてね。



2004・04 192
2004・03 191
2004・02 190
2004・01 189
二〇〇三年に読んだ本+おまけ
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189 このごろ読んだ本 2004年01月号


二〇〇三年に読んだ本
 今年は、軽いものをシリーズで読んだりしたので冊数が多くなりました。一
年間で読んだ本は、全部で二四八冊になります。昨今のファンタジーブームを
追いかけていたので、ファンタジーが児童書・一般書合わせて九一冊です。こ
れでもまだ追いついていないのが現状です。ファンタジーは一般書で出ている
ものでも、ハリポタ・レベルつまり小学校高学年から、という感じのものも多
く、どちらに分類するか悩むものが多いので、一緒にしました。ファンタジー
以外の児童書は六三冊です。これも、安房直子やサトクリフをどちらに分類す
るか悩みました。サトクリフはファンタジー以外ですが、安房直子は両方に分
けて入れました。ミステリーも多く四四冊です。これは児童書は含まれていま
せん。一般書の小説というのが思いの外あって一四冊でした。SFは少なく一
一冊です。茅田砂胡の「暁の天使」シリーズは一応ここに分類してあります。
残りは小説以外、ノンフィクションや社会学・心理学関連で、二六冊でした。
 さてそれぞれベスト3を上げていきます。記録を書いてある手帳を見返す
と、すっと物語が想い出されるものと、何だっけ?と頭をひねるものとがあり
ます。主人公の名前はほとんど混乱しているので分からなくなっていることが
多いので、ご勘弁下さい。
 まずファンタジーは、さすがに多いので、児童向きと一般向きとでそれぞれ
選びました。児童書では、「神の守人」来訪編・帰還編(上橋菜穂子 偕成
社)。十一月に出た「狐笛のかなた」(理論社)も良かったのですが、重量感
があるのはやはりこちら。神との関係、巫女であること、人とのかかわりなと
を考えさせてくれる本でした。
 「盗神伝Tハミアテスの約束」(メーガン・ウェイン・ターナー 金原瑞
人・宮坂宏美訳 あかね書房)は、さすがと唸らせるどんでん返しです。しか
も主人公の造形がいいの。何でも盗める盗人の少年というのですから。神が出
てくるシーンも違和感無く読めました。3巻シリーズですが、2と3は上下本
ですが、そのうち2巻しかまだ読んでいないので、今回上げるのは、1巻のみ
です。
 「サークル・オブ・マジック」シリーズ全3巻(デブラ・ドイル&ジェイム
ス・D・マクドナルド 武者圭子訳 小学館)は、少年の成長記です。魔法使
いに魅せられて魔法の学校に入り、勉強する第1巻、修行の旅の第2巻、姫を
助け、悪魔と戦い王国を救う第3巻。いかにもファンタジー!という感じが多
少胡散臭くなるときもありますが、まあ良しとしましょう。正当はファンタ
ジーの一翼を担う作品でしょう。
 一般書としては、まず「ゲド戦記Xアースシーの風」(アーシュラ・K・ル
=グイン 清水真砂子訳 岩波書店)。内容は児童書ではないと思います。死
者を解放するシーンは、価値観を転倒させるという意味で印象的でした。これ
を機に、ゲド戦記を読み直しました。外伝の出版は春から少し遅れるようで
す。
 「サブリエル 冥界の扉ー古王国記T」(ガース・ニクス 原田勝訳 主婦
の友社)は、分厚くてなかなか読み進めらず時間がかかりました。冥界や古王
国など、世界の作り方が独特で、それに入り込んでいくとハラハラドキドキの
連続でした。主人公が、何も分からず父を捜すことで結局国を救う、というよ
くあるパターンがうまく生かされていました。
 「海より生まれし娘ーシャーリアの魔女1」上下(ダイアナ・マーセラス 
関口幸男訳 ハヤカワFT文庫)は、魔女であることを隠していきる娘が主人
公です。魔女と告発され貴族達の争いに巻き込まれてしまいした。お約束のロ
マンスもありますが、それより古の魔女の遺跡を発見する場面が良かったで
す。今後話がどう発展していくのか楽しみです。
 ファンタジー以外の児童書では「闇の女王にささげる歌」(ローズマリー・
サトクリフ 乾侑美子訳 評論社)。ローマに抵抗した最後のブリテンの女王
を、吟遊詩人が語る物語。緊張感ある語りで、ラストが悲しいと分かっている
のに、引きつけられて読みました。
 「ノリー・ライアンの歌」(パトリシア・ライリー・ギフ もりうちすみこ
訳 さ・え・ら書房)はアイルランド飢饉の話。ジャガイモが全滅したのに、
イギリスの領主が厳しく取り立てます。金を工面してアメリカに渡るしか生き
る術はないのです。アイルランドの人口が半減し、移民が多いのはそういう訳
でした。少女の視点で、必死に生きようとする姿を描いています。
 「ホワイト・ピーク・ファーム」(バーリー・ドハティ 斉藤倫子訳 あす
なろ書房)は、丘陵地帯で羊を飼う一家が舞台です。厳しい父と成長するにつ
れ離れていく子どもたち。祖母との絡みで少女の心を描いています。
 さて、ミステリーですが、これはもう「白い殺意」(ディナ・スタベノウ 
芹澤恵訳 ハヤカワ文庫)で始まるシリーズです。既刊5巻はすぐに読破しま
した。アリューシャン列島の先住民で、太平洋戦争時、日本軍に追い立てられ
たアリュート人一族の娘が主人公。アラスカの国立公園内の居住地に一人暮ら
すのですが、元検察局員だったため、度々潜入調査を依頼されます。アラスカ
の自然を背景に、先住民の苦悩を背負い、厳しい自然の中で生きる彼女の姿
は、カッコイイの一言です。
 同じくシリーズを読み出したのが「誤殺」(リンダ・フェアスタイン 平井
イサク訳 早川書房)で始まる女性検事のシリーズです。ニューヨークで性暴
力を担当しているので、その犯罪や被害者への対応ぶりが、すっきりしていて
いいのです。彼女も魅力的なのですが、恋人とうまくいかないのが残念なとこ
ろ?
 「どこよりも冷たいところ」(S・J・ローザン 直良和美訳 創元社推理
文庫)は、中国系の女性とアイルランド系の男性のコンビを交互に描くシリー
ズで、これは彼が主人公。レンガ職人としてビル建設現場に潜り込むのです
が、そういうプロットよりも、ピアノを弾くことに自分を取り戻そうとする姿
に惹かれます。シリーズものは主人公が魅力的でなくては続きませんものね。
 さて、ついでにSFを。「目覚めよ!女王戦士の翼!」上下他全4巻「ス
コーリア戦記シリーズ」
(キャサリン・アサロ 中原尚哉訳 ハヤカワSF文
庫)。主役はテレパシーを中心にした特殊能力を持つ王族です。彼等が支える
ネットで、情報は宇宙全体一瞬にして伝わります。敵対するのは、痛覚を遺伝
的に排除した種族。テレパシー能力者を奴隷にしています。それぞれ主人公も
舞台となる星も違います。何巻目かに家系図があったので、ようやく関係性が
飲み込めました。科学的説明はそれなりにしてありますが、そもそもの設定が
飛んでいるので、多少のことには目をつぶってしまおうという気になってしま
います。
 「言の葉の樹」(アーシュラ・k・ル・グイン 小尾芙左訳 ハヤカワSF
文庫)は、久方ぶりのロカノンの世界の翻訳です。異文化との接触、そこで自
らの出自を問い、共感・共鳴することによって、互いを生かしていく、それが
やはりテーマなのでしょうね。
 「祈りの海」(グレッグ・イーガン 山岸真 ハヤカワSF文庫)は短編
集。究極まで海に潜ったままでいると、幸福な神の存在を感じることができる
という海の一族の信仰。それを解明してしまった研究者とは?不思議な味わい
の物語が並んでいます。ちょっとシニカルな印象は今の時代だからでしょうか
 一般書の小説ではまず「模倣犯」上下(宮部みゆき 小学館)。ミステリー
かもしれませんが、それより人間ドラマだと思います。もちろん前半は犯人が
隠されていて、後半読者に明かされてからもぐいぐい引きつける、その筆力は
やはりすごいですね。人間の描き方が、納得のいくものだからでしょうか。
 「OUT アウト」(桐野夏生 講談社)も引き込まれました。映画では
ちょっと設定が変わっているようですが、暴力を振るった夫を殺してしまった
若い妻、銀行で真面目に働き続けても報われなかった女性、寝たきりの姑を抱
えて疲弊する主婦、現実ではなく都合のいいことだけを見て生きる女性。それ
ぞれのドラマと、彼女らを絡める事件。最後はさすがにちょっとしんどい場面
もあって、あまり救われないけれど、それが現実かもしれません。
 「蕨野行」(村田喜代子 文芸春秋)もやはりちょっとしんどく、あまり救
われない気がしますが仕方がありません。そもそも姥捨ての話なのですから。
それを姑と若い後妻との会話という形で、うまく描いています。良心的な庄屋
の役割を描き、一方で口減らしのために嫁に出され、また里に戻される娘たち
が、山姥になっていく様子など、腑に落ちる状況で描いてくれます。力のある
作家だと思いました。
 最後は、一般書の小説以外のものです。やはり重たかったのが「鬼哭啾々」
(辛淑玉 解放出版社)です。彼女の生い立ちを語る中で、在日への差別、在
日同士の差別、帰国した親族からの無心等々、おおっぴらに語られなかったこ
とが、明らかになっていきます。のうのうと暮らしている私たちが目を背けて
は行けない、と感じました。
「〈癒し〉のナショナリズムー草の根保守運動の実証研究」(小熊英二・上
野陽子 慶應義塾大学出版会)は、上野さんの卒論、ある保守グループでのイ
ンタビューと、小熊さんの論文からなっています。私は、このグループと敵対
すると言ってもいいところにいるのでしょうが、実はそう変わらないところに
立っているのかもしれないと思いました。それでも、言葉を届かせるのは難し
いものです。小熊さんの論文は考えさせられるんものでした。
 最後は少し軽くて「デボラ・ウィンガーを探してーハリウッドの女優34人の
哲学」
(ロザンナ・アークエット 中川紀子訳 河出書房新社)。三〇代四〇
代の仕事をしている女性の生き方を語る映画のノベライズです。

+おまけ

 十二月はいつも、年間のベスト発表にな ってしまい、読んだ本を紹介しき
れないの で、少しだけ触れておきたい。
 今月読んだは二十五日の段階で十五冊。やはり忙しいので少し少なめ?で
も読みかけの本が四,五冊あるので、年内には読み切ってしまいそう。月間
トータルは二十冊くらいになるだろう。
 「ライラエルー古王国記U氷の迷宮ー 」 (ガース・ニクス 原田勝訳 主
婦の友社) は、第1巻の「サブリエル」より読みやす かった。この世界にな
れていることもある が、死の世界やその闇の生き物達の登場が少な いからで
はないか。大半は、クレア一族の異端児 ライラエルの成長期と、サブリエル
の息子の話。しかしライラエルの素性が明らかにされただけで、話は中途半端
に終わってしまった。続編が読みたい。
 「山羊座の腕輪」(ローズマリー・サトク リフ 山本史朗訳 原書房)。
山本訳は好き はないのだが、やはりサトクリフは安心して読めると思う 。
ローマ軍兵士の一家に受け継がれる山羊座の腕輪。古い順にその人生が語ら
れ、ブリテンの歴史が浮かび上がる。「第九軍団のワシ」などに比べれば、軽
い感じだが、彼女らしさは健在。
 「冒険のはじまりしときー女剣士アランナ1」(タモラ・ピアス 本間裕子
 PHP研究所)。ふたごの兄妹が、修業先の交換し、妹アランナが王宮で騎
士になる修行をする。
従者見習いの生活は、午前中は講義、午後は武術の訓練、夜は給仕と忙しい。
王子との友情も得て、四年後に騎士になることをめざしたアランナの厳しい修
行が始まる。負けず嫌いのアランナがかっこいい。
 「龍の住む家」(クリス・グレーシー 三辺律子訳 竹書房)は、ステキな
表紙で思わず期待してしまったが、内容はわりと軽い。ハリポタを読める子な
ら充分大丈夫。大学生が下宿した家には、ふしぎな龍の置物が沢山あった。大
家さんが作っている陶器の龍なのだが、、、。目の見えないりすを気遣う大家
の小学生の娘と、龍の果たす役割とは?
 「ドルフィン・エクスプレス 三日月ジョー」(竹下文子 岩崎書店)、
「黒ねこサンゴロウ」外伝のこのシリーズ。書き続けられるようになったのは
嬉しい。愉しんで読める。
 「サバイバー 地図にない島2 銃弾」(ゴードン・コーマン 千葉茂樹訳
 旺文社)は、孤島に漂着後の話だが、「二年間の休暇(一五少年漂流記)」
に似てきた。仲間割れ、悪人が島にやってきて、逃げ回る、エトセトラ。さて
これでどう結末をつけるのか、それを知るためにも三巻を読まなくては。
 「水晶の鐘が鳴るとき」上下(エリザベス・ローウェル 高田恵子訳 ソ
ニーマガジンズ)は、推理小説かと思ったら、ほとんどハーレクイン状態だっ
た。ただ、鍵になるのが一六世紀の彩色画本。そのために祖母を殺された織物
作家の女性が、中世の魔女を写し、鑑定家・修復家である男性が、魔女に絡め
取られた賢者をとなり、、。という辺りが、ファンタジーめいていてまあまあ
楽しめた。

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